●詰め物の種類と組成と特質
昔から枕の詰め物として利用されたものは多い。動植物性の多くは吸湿、通気(放熱、放湿)、弾性、防菌性などが考慮されて選ばれ、鉱物性のものには通気、保冷などを目的としたものが多いが、時代、地域、流行、好みなどもあってさまざまなものがある。これまで使われていた詰め物についても一考することは、新しい枕の開発にも役立つのではないかと思っている。
(1) 詰め物の種類
1)草 類

ハス(蓮):スイレン科、多年草で根茎のつながり部分や不用部分を細断して使用した。乾燥すると硬くなるが吸湿性がよく、小穴が多いので通気性(放熱性)もよい。使用の歴史は長い。果実は生薬名蓮実として強壮剤。
(原産地)インド
(分布) 全国各地の池沼水田で栽培され、根茎は蓮根と呼ばれ食用となる。
マコモ(真菰):イネ科、多年草、別名 コモ、ハナガツミ、チマキグサ、カツミグサ、フシシバの茎葉を使用、枕の材料として最も古い時代からのものである。全国各地に分布。
ガマ(蒲):ガマ科、多年草、別名 ミズクサ、ヒラガマ、ヤリンボ、カバの葉、茎を使用。葉は柔らかいので編んで枕の側を作ったり巻いて枕を作ったりする。茎葉とも詰め物としても使われた。吸湿性、通気性(放熱性)がよい。
(分布) ガマ科の植物は世界の熱帯、温帯に広く分布しており、10種類ほどがある。この内日本にはガマ、コガマ、ヒメガマの3種が自生している。
ガマは北半球全体の温帯に分布しており、日本では本州、四国、北海道に多い。コガマは日本、沿海州、中国、フィリピンに分布、日本では各地に自生している。ヒメ
ガマは日本、ユーラシア大陸の温帯、地中海地方に分布している。
日本ではガマ、コガマ、ヒメガマとも同じような所に自生している。
(形態) 沼や池などの水辺や湿原に自生していて、時には大きな群生も見られる。 草丈は100〜200?ほどになる。茎は円柱形で太く頂上に短くて細い雄穂がつき、その下の方に黄褐色のローソク形の太い雄花がつく。葉は広線形で色は帯白の緑色、表面は滑らかで葉肉は厚く幅1〜3?、長さ100〜150?ほどになる。
(利用) 穂わたは座ぶとんや枕の詰め物として利用されたことがある。葉は水洗後乾燥してガマ草枕や脚絆、敷物などの加工材料とした。
(薬用) 雄花の花粉は蒲黄(ボオウ)と呼ばれる生薬で、止血、消毒作用のほか、煎用して補血、発汗、咳止めの民間薬となっている。
イグサ(藺草):イグサ科、多年草、別名 ホグサ、トウシンソウの茎を使用。昔から今も利用されている草枕で吸湿性、通気性よく、夏季用の枕として愛用者も多い。
(分布) 世界の温帯及び寒帯に分布し、種類が多い。
日本の各地に自生している。改良された種類は畳表などの材料として水田、湿地帯などで栽培されている。
(形態) 群生で濃い緑色をしていて中実、茎は太さ1〜2?ほどで細長い円筒形で節はなく、滑らかで光沢がある。普通の形をした葉はなく全部が葉心のない葉鞘となっている。夏に茎の上部に緑黄色の小花がつく。
(採取) 開花期の前後に地上部分から全草を刈り取り陰干しとする。
(利用) 畳表、ござ、枕側、うちわ、手さげなどの加工材料となる。また茎の皮を割くと白い髄がとれる。これはあんどんなどの灯心やローソクの芯としたり枕の柔らかい詰め物として使われる。
(薬用) 生薬名は灯心草で脚気、水腫の時の利尿剤としてまた催眠、解熱にもよいとしている。
ススキ(薄):イネ科、多年草、別名 オバナ、カヤ、オバナガヤの茎・葉を使用。全国各地の堤、土手、荒れ地などに群生。
ヨシ(葦、蘆、葭):イネ科、多年草、別名 アシ、キタヨシの茎・葉を使用。全国各地の水辺に群落、自生する。
イネ(稲):イネ科、多くは一年草の茎・葉を使用。吸湿・通気性がある。インデアン種とジャポニカ種がある。
(原産地)中国、インドのベンガル地方といわれている。
(分布) ほぼ日本全土、水田地帯
(形態) 茎高50〜100?、葉の長さ30?ほどで細長く互生、花序は30?ほど
薬草・香草類:菊花、ショウブ、ヨモギ、バラ、ラベンダー、カモミール、レモンバーム、ミント類、ジャスミン、ベルガモット、ローズマリー、ディルなど(香料、香草、生薬の項参照)
2) 穀 類
ソバがら(蕎麦殻):ソバには三稜形の種実がなる。この種実の中から白色で澱粉質のソバ粉をとり食料とするが、このときに副産物として出る果皮(殻)がソバがらである。
ソバがらは枕の詰め物としては最も代表的なものであり、古代から現代に至るまで多量に使われている。詰め物としては最適である。現在は世界各国からの輸入ソバが多いので粒の大きさ、色、形などソバがらも多様である。
ソバがらは吸湿性排湿性がよく、更に吸湿によって殻の表面と裏面の細胞の大きさの違いから殻の湾曲が増大するので枕の中での空間が増え通気性が増加する。
現代は精粉技術の相違からほとんどが3枚がらとなっているが、残留する粉もあって虫害もあるが、石臼などで引き直して1枚がらとして精製することで虫害を防ぐことに成功した例も多い。
省略
ソバ(タデ科 Polygonaceae ソバ属 Fagopyrun ソバ Fagopyrumesculentum 多くは一年草)
(原産地)中国東北地区、シベリア中部、アムール川流域、バイカル湖付近といわれているが、諸説があって地域を特定することは難しい。世界ソバ研究会代表でもあった長友大氏は「アジア大陸の中心部で内陸山岳地帯」がソバの発祥地と見るのが一番穏当であろうとしている。
(原基植物)宿根ソバ説や野生ソバ説などもあって明確ではない。
(発 生)紀元前4000年〜2000年に地球上に発生したものらしいとされている。
(種類と分布)
a.普通ソバ
日本への渡来:中国から朝鮮半島を経て渡来したものと想像されるが、渡来の時代についての明確な資料は見当らないが、約3000年前の縄文晩期の初期頃にはヒエ、シコクビエ、アワ、キビ、イネなどと共に渡来し、栽培されていたといわれている。
形 態: 茎丈30〜60?、葉は心臓形の三角形、夏から秋にかけて白またはピンク色の小さな花がつき、三稜形の種実がなる。種実は3稜が普通である(98%)が、まれに変異で4稜(2%)2稜(0.2〜0.04%)5稜(0.02%)6稜(0.001%)があると報告がある。
日本、中国、アジア諸国、東部インド、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカで栽培されている。日本では一般的な品種。

b.ダッタン種(Fagopyrum tataricume Gaertner 一年草、別名ニガソバ、ガソバ)シベリア、中国(東北部、南部)、モンゴル、インド及び周辺国、韓国、北朝鮮、カナダ、アメリカ北部などで栽培されている。日本での栽培は少ない。
苦いが収量は多い。種実は三稜形。
c.宿根ソバ 多年草、別名、野菜ソバ、シャクチリソバ地下に黄赤色で大きな根茎がある。草丈は1m以上になり、茎も半木化する。刈りとりすると新しい芽が出て葉は食用となる。種実は三稜形、生薬名「赤地利」(本草綱目)。

d.その他 数種類のものがあるがいずれも特定地域で栽培あるいは自生している品種で数量は少ない。それぞれの種実は特徴ある形をしている。
a) Fagopyrum rotundatum Gaertner
Kunawur 地方で栽培、種実は三稜形、面の基底部は丸みがあり、上部は竜骨形、しわが多く、面の中央に縦走条線がある。
b) Fagopyrum emarginatum MEISSN
東ヒマラヤ、中国西北部に自生するといわれている。種実は三稜形、面は卵様で平滑、頂点に截刻がある。
c) Fagopyrum eymosum MEISSN
温帯ヒマラヤ地方、種実は三稜形、頂点鋭角で卵形
d) Fagopyrum triangulare MEISSN
Nepalia,Kumaon,Sirmove, 中国に自生、種実は三稜形角端隆突、面は卵形
(ソバと名の付く別種のもの)
タデ科には30属 800種がある。その中でソバでないものでソバと名の付くもの、オヤマソバ、ソバカズラ、タニソバ(ソバタデ、アカヅラ)、ミヤマタニソバ、ツルソバ、トゲソバ、(ママコノシリヌグイ)、ミズソバ(タソバ、ウシノヒタイ)、オオミゾソバなどがある。また別な科の中ではソバグリ(ソバノキ 本名ブナノキ ブナ科、実に稜角があるのでこの名がある)、ソバノキ(本名アカモチ、バラ科)、ソバナ(キキョウ科)ソバウリ(本名キウリ、ウリ科)などがある。
もみがら(籾殻):イネ(稲)
もみがらは吸湿性(ソバがらより遅い)、通気性がよい。ソバがらと比べ、ぬめりが少なく硬いが、ソバがらと共に昔から使用され、数量的には昔は最大であったが現代では使用は少ない。ソバがらが今も使用されているのと対象的である。
アズキ(小豆):マメ科、一年草の種子、枕の詰め物として吸熱性があり、吸湿性、通気性もよく昔も今も使用されている。詰め物として最適である。
(原産地)インド
(分布) 北海道が多い。
(種類) 栽培品種で種類は多い。
(薬用) 生薬名は赤小豆、内用して利尿剤、外用では消炎剤の民間薬として使われている。
リョクズ(緑豆):マメ科 、一年草、別名 ヤエナリ、ブンドウの種子アズキと同様に使われている。中国南方産。
クロマメ(黒豆):マメ科、一年草の種子、別名マメ、オオマメ、大トウケツ豆の一種、生薬名豆檗。吸熱、吸湿、通気性がよい。
ヒエ(稗):イネ科、一年草の種子・殻、野生の変種にはイヌビクマビエがある。吸湿性よく昔は高級な枕の詰め物
アワ(粟):イネ科、一年草の種子
キビ(黍):イネ科、一年草の種子
ジュズダマ(数珠玉):イネ科、多年草、別名 スズコ、スズメダマ、スダマノキ、スズダマの種子、通気性、吸湿性がよい。
(原産地)中国
(分布) 本州各地の原野、水辺に自生
(生態) 茎高120〜150┰、葉は対生、葉身は細長く夏から秋にかけて葉腋から雌花、雄花、を別々に出す。秋には球形で白褐色のやや堅い実をつける。
(薬用) 実は生薬名川殻として利尿剤、健胃剤として煎用、古くからの民間薬。
自生している地方では枕の詰め物として昔から使用されているが枕に詰めるには量が多く必要とあって自生が少なくなったいまは使用は減少している。
コ―ヒ―豆:アカネ科、常緑低木の種子
(原産地)中央アフリカ
(分布) 熱帯各地で江戸時代に外国人により時々輸入されたが一般化したのは大正以降、平成における需要は多い。
その他の種実:ドングリ(ブナ科のカシ、クヌギ、ナラなどの果実)、クルミ(クルミ科)、ウメ(バラ科)の種など
3) 木 片
キリ(桐):ゴマノハグサ科、落葉高木、別名 キリノキ、ヒトハグワ、ハナギリ、木質柔らかく粗なので吸湿性がよい。
ヒノキ(檜):ヒノキ科、常緑高木、日本特産種、香り、防菌性
アスナロ :ヒノキ科、常緑高木、別名 アスヒ、ヒバ、シロビ、アスハノキ、ヒノキアスナロ、香り、防菌性
ホオ(朴):モクレン科、落葉高木、別名 ホホノキ、ホンノミ、ミユフベ、ホオカシワ、木質柔らかく粗なので吸湿性がよい。
スギ(杉):スギ科、常緑高木、日本特産〔木部の精油成分平均1%主成分は「セスキペン」「セスキテルペンアルコール」など〕
ケヤキ(欅):ニレ科、落葉高木
その他の木片および木炭(吸湿、吸臭性がよい)
4) 木 葉
茶 葉  :ツバキ科、常緑低木・原産地は東南アジア、高さは1mほどで葉は長楕円形で厚く表面平滑で光沢がある。香りがよい。
柳 葉  :ヤナギ科、落葉高木または低木、日本には90種類ほどがある。
油柑葉  :トウダイグサ科、別名集葉、余甘子葉、産地は中国の四川・広東・広西・貴州・雲南などで葉は夏・秋に採取される。薬効は皮膚湿疹、庁瘡によく殺菌作用がある。
ナンテン(南天):メギ科、常緑低木、原産地は中国、葉は羽状複葉九州沖縄に分布、観賞用として各地で栽培されている。難を転ずるとの語呂合わせから縁起ものとして使われていた。果実は生薬名南天燭
5) 竹   
:イネ科、常緑高木または低木で種類は多い。
チップ材・中空の細竹を1〜2┰ほどに切ったものなどが使われる。通気性がよく、吸排湿性、吸排熱性に優れている。洗濯も可能なので衛生面からもよい。
6) 動物性材料
被毛類:羊(ウシ科)、ラクダ(ラクダ科)、カシミヤ山羊(ウシ科)、山羊(ウシ科)、アルパカ(ラクダ科)、ヤク(ウシ科)、ウサギ、(ウサギ科)、牛(ウシ科)、馬(ウマ科)、犬(イヌ科)など
羽 根  : アヒル(カモ科)、ガチョウ(カモ目)、アホウドリ (アホウドリ科)、カモ類、七面鳥(シチメンチョウ科)、鶏(キジ科)小鳥類など
羽根(フェザー)は通気性よく放熱があり、弾性も適当でなじみ易い。
皮、毛皮、牙、角なども数は少ないが利用されている。
7) 土、石類
小石、砂、塩、碁石、粘土、陶器、珊瑚、貝殻、人工真珠、人工砂、人工石などいずれも涼冷感のある素材であり、夏向きの枕が多い。
8) 金 属
スプリング、砂鉄、鋳鉄、鉄線など涼冷感がある。
9) 繊維類
綿:アオイ科、アジア、中米、南米原産、一年草の種子の綿花
麻:クワ科、中央アジア原産、一年草の茎の繊維質
亜麻:アマ科、西アジア原産、一年草の茎の繊維質
パンヤ(カポック):パンヤ科、東アジアの熱帯に分布している常緑高木で、20〜30mほどになる。葉は掌状で楕円形の小葉7〜9枚からなっている。実は長さ12?くらいで太さは 5?ほどになり5つに裂け、種子に綿毛があり、この綿毛が利用される。
枕の詰め物としては明治時代には既に使用されており、歴史は古い。軽く、弾性があり感触は柔らかいがヘタリ易い。長く使用すると粉状となるので追加して使用する。
絹:鱗翅目カイコガの幼虫の蚕のまゆから作られる繊維。
化学繊維類:ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ナイロン、ビニロン、アセテート、レーヨンなどかさ高性、弾性、防菌性などが利用されている。
10) 化学製品
ラバー(整形・チップ材)、ウレタン(整形・チップ材)、プラスチック(パイプ形・カプセル形・ビーズ形)、ビニール、およびこれらの加工品、各種の蓄冷剤など。プラスチックのパイプ型やこれに類似する中空型のものは通気性が良く、洗濯も可能である。ただし材質そのものは吸湿性に欠ける。
11) その他
水(水枕)、空気(空気枕)なども詰め物となる。

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