【枕 売 り】
 枕売りがいつ頃から始まったかは不明だが、鎌倉時代の枕売りとして「七十一番歌合」「群書類従」に木枕の図がある。江戸時代には商業も盛んになり、江戸下期には髪形の流行もあって、箱枕や撥形枕などの需要も多くなった。「式亭雑記、文化七年庚午六月、式亭自記干時三十五齢」には「去年[文化六年(1809年)]の歳暮より此春[文化七年(1810年)]にかけて、三十八文見せ(店)という商人大いに行われり。小間物類しなじなほしみせ(乾店、露店)に並べ、価をば三十八文と定め商う事也。塗り枕、あぶりこ(炙子、餅焼網)、櫛(くし)、かんざし、茶ほうじ、小児の手遊道具類・・・」とあり、三十八文均一店で木の塗り枕が売られていた。

 また商人の呼び声には「あぶりこでもかな網でも三十八文、ほうろく(焙烙、ふちの浅い素焼きの鍋)に茶ほうじ添えて三十八文、銀のかんざしに小枕(くくり小枕)をつけて三十八文・・・」とある(カッコ内は筆者記入)。

 昭和の初め頃まで一般に多く使われた坊主枕(くくり枕)などは、主婦が家の中にある布切れや古着を活用して側布を作り、これにもみがら、ソバがら、茶がらなど身近にある詰め物を使って家族の一人一人に合わせて作ったので、さまざまな工夫がこらされたものがある。蒲団店(寝装店の名称は新しい)ではソバがらを小袋に詰めて売っていた。
 
出典「七十一番歌合」群書類従巻五百三